ホワイトカラーエグゼンプションの関係か、日本人の「上司より先に帰られない」症候群に関する記事が最近目に付く。日本で働いていた頃も思っていたし、前職では部署の全員を6時半に帰らせるキャンペーンを言い出して早く帰るように上司のお尻を叩いていたので思い入れが深い。根深い問題と思う。
ただし!
それが日本人に限った問題かというと、そうではないんだ、とここに来て気がついた。
日本人の場合、先祖代々から伝わる日本文化の協調性・平等性、また、周りからの評価が気になり、同僚・上司が残業しているのに自分だけ帰りづらい気持ちを呼び起こし、結果的に一緒に残業をする、と言う図式になるのだと思う。
では、僕のまわりのドイツ人が同様の状況で、全く後ろめたい思いを抱かずにサクッと退社するかというかと言うと、そうではない。また、上司も上司で、部下が頼んだ仕事をやり終えてないにも関わらず、ヘラヘラと帰っていくのを何も感じずに見過ごすかと言うと、そうでもない。
例えば、ドイツでの前上司(ドイツ人)なんかだと、1時間に1本しか電車がない職場で、電車が来る10分前にオフィスに来てどうでも良いことを話出してもう1時間残らせようとしたり、上司が来るのを見越してさらに一本早く帰った部下を非難するなんてのは、日常であった(僕は車でしたが)。
スイスの上司(ドイツ人)は、月~木は6時半~16時まで働き、金曜日は14時に帰る。そんな彼は、部下が諸所の事情で彼より遅く来て彼より早く帰ろうとすると、「ええええええ!もう帰るの?!」と大げさに驚く(彼の中ではジョークなのかもしれないが)。
そんな環境なので、僕の同僚のドイツ人達は、ちょっと早く帰るにしても上司の車が通り過ぎたのを確認した後に帰るし、自分より遅く来た社員が早く帰るのを見てはいちいち不平不満も言う。ドイツ人と日本人はよく似ているとも言われるが、これだけダイレクトで個人主義な彼らが、これだけ周囲の目を気にするのを見ると、彼らの感覚は僕らのそれと似たようなものだと感じざるを得ない。
しかしながら、ドイツ人の残業量もここで働く僕の残業量も、日本人と比べると圧倒的に少ない。
なぜか。
僕はこう考える。
ドイツ人も日本人と同様に(同等にとは言わないが)上司・同僚が残っている中で先に帰ることに対して後ろめたい気持ちは覚える、だが、誰に刺されようが帰る。
日本とドイツの差は「誰に何を言われようが、誰が後ろから刺して来ようが俺は帰るんだ」と、いう意志の強さである。その意思の強さを支えるのは、ドイツの個人主義であったり、仕事の責任が個人単位にあること、残業代がないこと、長期休暇を自分で取られる文化(=働かない権利みたいな)のが挙げられる。そして、心の中では「誰に何を言われようが、就業規則で定められた時間働いているわけだし、何か言ってくるものなら戦ってやろうじゃないの」、また、「そんなことでグダグダ言われるならより良い会社に転職するわ」みたいに思っているのではないか、と勝手に想像している。(もちろん、エグゼクティブはそんなこと関係なくどこまでも働く。)
日本の「上司より先に帰れない」症候群は、まさに日本文化の良さ・奥ゆかしさの一部分でもあり、国民性そのものでもあるとも思う。そのため、ホワイトカラーエグゼンプションどうこうで激変するとは思えない。
むしろ、これらの制度で日本人の奥ゆかしさが失われ、「人は人、自分は自分」みたいなのが徹底されたら、こちらの方が大きな損失である。
ただし、生産性向上のためにも、海外のタレントを引き寄せるためにも、何かしなくてはいけないのもまた事実。とりあえず何もしないよりは何かすべきと思う。新しい制度の良さを引き出しうまく使える組織は伸びると思うし、うまく使えない組織はいつか淘汰されるのではないか。どちらにしろ、5年、10年後にはきっと何か違っていると思う。
コメント