海外転職 スイス1年目の総括

スイスに来てちょうど1年が経つ。
そして今、腐っている。この1年は、大きくステップアップして結果も残せた1年だった。

日本からドイツに渡って1年間、特別扱いの「ジャパンデスク」のような立ち位置で仕事をしていたが、組織変更の波にうまく乗っかってスイスに移り、「ジャパンデスク」から「ただの一社員」になるチャンスを得られた。

スイスでのチームに新しいメンバーが加わり、ドイツではドイツ流の仕事を教えられる側だった自分が、スイスに来てドイツ人・ヨルダン人の新しいメンバーにドイツでの仕事とは何か教える側に立った。

上司が首になり、初めての部下を持ち、「ただの一社員」として製品を引き継ぎ、テクニカルイシューでずっと立ち止まっていたプロジェクトを軌道に戻した。これにより、日本と外国の橋であったただの日本人から、外国で一個人として初めて価値を残すことが出来た1年でもあった。

この「テクニカルイシュー」だが、サイエンスを越えた様々なものを学んだ良い機会だっった。恥ずかしながら普段あまり実感はないのが、製薬会社で働いている手前、人の命に関わるプロダクトをつくっている。

開発段階では必ず問題は起こるし、問題は解決しない限り、前に進むことはない。そう、人の命に関わるプロダクトをつくっているのである。

驚いたのは、問題解決の考え方である。
日本的なアプローチだと、

1. 問題が起きる
2. 根本原因を追及する
3. 根本原因を取り除く
4. 再スタートする

となるのが普通だが、スイス・ドイツ的なアプローチだと、

1. 問題が起きる
2. 解決方法を探す
3. 解決方法を組み込む
4. 再スタートする

このドイツ・スイス的な「解決方法」は、必ずしも根本原因を取り除くことではない。
昔どこかで読んだことがあったが、日本とヨーロッパの問題解決のアプローチは、ここで大きく異なる、と。

例を挙げるとすれば、

問題:賞味期限が3週間あるはずの牛乳が冷蔵庫に入れておいても2週間目で腐る

日本的解法:2週間で腐る原因は製造工程のどこかにあるはずなので、製造工程に変化点がないかくまなくチェックし、突き止め、変化点を修正し再生産を開始する。

ドイツ・スイス的解法:費用対効果を考えた上で、根本原因を追求するよりも、賞味期限を3週間から1週間に修正した方がビジネス上のインパクトが少ないので、製造工程には深入りせずに、賞味期限だけ変更して、再生産するを開始する。

ドイツ・スイス的な解法をプラグマティックアプローチと呼ぶのかは知らないが、日本的解法にどっぷり浸かっていた自分には心底居心地の悪い解法だった。まあ、最終的には、ドイツ・スイス的な解法の良さも分かってきたし、結局はバランス型のアプローチを心がけたいと思うだけである。

ただ、僕の担当した製品を長く苦しめていた「テクニカルイシュー」はこのプラグマティックアプローチが裏目に出た例だった。様々なパラメターが複雑に絡んでおり、また、離職率の高いこの会社で、知識のトランスファーも不十分だったこともあり、最悪の状況だった。

また、今僕のいるような小規模の会社では、一製品のひとつの問題が会社を傾けるだけのインパクトを持っている。メガファーマにいた頃は気付かなかった。今回の場合、結果的に上司は首になり、しわ寄せの来た間接的に関係のあるチームは人員削減を受けた。

多大な損害を出しているこの「テクニカルイシュー」にしびれを切らした上層部は、ろくにデータも見ずにプラグマティックアプローチをいくことを決断し、直後、僕が製品を担当することになった。最終的に、日本的な、クラシックなアプローチで出した僕の答えが上層部の決定を覆し、今プロジェクトは軌道に戻った。

文章にすると簡単だが、メンツのために一度出した決定を覆されたくない上層部をいかに説得するかの根回しには苦労した。覆すに足るデータも。何より、自分が言い出したことで、過去の人生、ここまで重要なことはなかったと思う。言い出しっぺの責任がある故、何度も何度も「もし自分の仮説が間違っていたら・・」と不安になることも多かった。

そして、大企業出身者の多くも、この規模の会社でそんな政治的なことに労力を費やすこと、サイエンスよりポリティクスを優先されるこの会社の文化に落胆することも多々あった。

最終的には、ただの一社員として当たり前のことを当たり前に出来たことに喜びを感じている。そして、社内唯一の日本人として、日本的解法で出したサイエンスで、ドイツ人・スイス人の上層部のポリティクスを負かしたことにも喜びを感じている。

たぶんこれが今年1番大きかった出来事かなぁと思う。
GMATギリギリ700点取れたと言うのもある種の今年のアチーブメントだが、毎日勉強していた頃は辛かったし、取れたときは嬉しかったけど、今はどうでも良い。
今年弱かったのは、ドイツ語へのコミットメントだったように思う。

ちなみに、今、僕が、腐っているのはMBA出願用のエッセイのせいだ。中だるんでいるだけなら良いが、考えれば考えるほど、自分のWhy MBAの根底にあるパッションが浮かばない、と、いうか、割と打算的に生きているから、そもそもそこにパッションはない。と、思う。

しばらく腐っていようと思う。

コメント

  1. Yo より:

    なかなか面白いですね。欧州大陸側で10年ほど働いているのですが、問題発生時だけでなく、決定に至る過程の違いについても起こる問題ですね。<br /><br />なにか決定事項がある場合、日本的には考えられる問題点を小さなものでも一つずつ検証し、その後に最適な決定を下すやり方が多いように思えます。一方で私の身の回りでは、まずは決定してしまい、その後問題が発生すれば、その都度考え直す、というやり方が多いかもしれません。まずは決定してしまうことで、結果的に必要のない仮定(起こる可能性が低い問題)に対する検証をせずに済み、時間の節約になる、という考えのようです。一つ一つの決定事項に関する重さの違いでしょうか? 軽い決定であれば、その後の翻意は簡単ですね。どちらが良いというわけではありませんが、違和感は拭えません。

  2. Yo より:

    もう一つ、コメントさせてください。数年前にMBAを取りました。Top10に入るような学校ではありませんが、一応はFTの世界ランキングにも顔をだし、私の在住国ではトップスクールに数えられます。もともと日系企業の所謂「現地採用」でこちらの来たのですが、卒業後は現地系企業に転職し、給与も以前に比べ2倍以上にはなりました。(以前が低すぎたとも言えます)<br /><br />ただ、MBAがあるからこそ今の立ち位置を確立できたかは、自信をもって「はい」とは言えません。仕事に対する視野が広がり、自分自身に対しての自信を持つことができ、自分のマーケット価格、もしくは競争力が上がった気もしますが、「自己満足」ともいえます。1年間の学生の期間中に学費と生活費として5万€位はかかったと思います。期間中の「費用」、「機会損」と「自己満足」を考えると、効率の良い投資であったかは疑問も残ります。後悔は全くしていま

  3. MT より:

    Yoさん<br />大先輩からコメントを頂き恐縮です。ありがとうございました。<br />欧州的決定についてのご意見、興味深く拝見させて頂きました。実際に欧州で働いてみて初めて気付くことが多く、ただただ面白いなぁと思います。渡欧当初気付いていなかった決定的な違い等に今更気付き、なんだか昔の自分を恥ずかしく思うことも多いです。。。おそらく、ここからさらにいろいろな差に気付くのであろうかなーと思ったりもします。実際10年働かれた大先輩は、2年目振り返られていかがでしょうか。。。?<br /><br />また、MBAについてのアドバイスも心に刺さりました。ありがとうございました。どちらかというと、投資効率については無頓着な方でした。「悩みきれていない」のかもしれませんが、少なくとも「仕事に対する視野が広がり」だけでも十分と思ったりもします。期待値が低いゆえのこのパッションのなさなのかもしれま

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